2007年に解放出版社から刊行された本の文庫化。
バリ島の豚の丸焼き、エジプトのラクダの屠畜、チェコの肉祭り、モンゴルの羊の屠畜、韓国の犬肉、沖縄のヤギ肉、インドの犠牲祭、アメリカの大規模屠畜、日本の芝浦屠場など、世界中を回って家畜が肉になるまでの様子を取材したルポルタージュ。
雑誌「部落解放」に連載されたことからもわかるように、屠畜という仕事やそれに従事する人に対する差別はなぜ起きるのか、というところから話は始まる。けれども、難しい話や主義主張を語るわけではない。ひたすら屠畜という仕事の魅力や大切さを丁寧に描き出している。
まさに興味津々といった感じで作業の一つ一つについて書き、詳細なイラストを付けている。現場の様子が目に浮かんでくるようだ。
しっぽといえども背骨に連なる骨がある。一見、すぱすぱと簡単に切っているように見えるが、刃を入れる場所を数ミリでも間違えれば、絶対(!)切れないのであった。
豚のおちんちんは股の間ではなくて、お腹の真ん中近くにある。食用の豚は、柔らかく味良くするために去勢してあるため、タマはないし、おちんちんもまるで出ベソみたいだ。
外国の牧場や屠畜の風景は、日本のイメージとは随分違うことも多い。
どこのイスラム国でも、都市部は肉屋が家庭に呼ばれて肉を捌くのが一般的だ。この日の肉屋は、まるでお盆の坊さんのように各家庭をはしごして回り、屠畜料をもらう。
見学したのは、テキサスの4大ランチのひとつ、ピッチフォークランチ。17万エーカー(687.9平方キロメートル)の面積を誇る。山手線の内側約11個分だ。
屠畜をめぐる話は、やがてBSEなど食の安全をめぐる問題や動物福祉という観点、さらには屠畜場の郊外移転と都市の関係など、様々に広がっていく。
現在、家畜が肉になるまでの工程を私たちはほとんど意識することがない。それを目に見える形で示したことは、この本の大きな功績だろう。
2011年5月25日初版、2014年3月15日4版。
角川文庫、857円。
イラストが細かくって、その傍に詳しい説明もあるのがすごくいい。
屠畜という言葉の方がいいです、屠殺より。
貴重な記録ですね。
よくこんなに細かく描けるものです。
内澤さんはその後、『飼い喰い 三匹の豚とわたし』という本も出されているので、それも読んでみようかなと思っています。