2016年06月13日

大口玲子著 『神のパズル』

著者 : 大口玲子
すいれん舎
発売日 : 2016-04-08

思いつくままに感想をいくつか。

国境を越えて放射性物質がやってくる冬、耳をすませば
学校で習わぬ単位、シーベルト、ラド、レム、グレイ、キュリー、レントゲン
流れざる北上川の水のなか燃料棒は神のごと立つ
原発から二十キロ弱のわが家かな帰りきて灯を消して眠りにつけり

2004年発表の「神のパズル」100首より。
福島の原発事故の7年前に詠まれた作品である。
いま改めて読み直すと、その先見性に驚かされる。

放射能汚染のリスクについて、自分の中にある基準をうまく説明できなくて、両親とこの問題について話すことはありません。私がいちばん深刻に考えている問題について、夫や両親とさえ対話することが難しい状況にあると思っています。

身近な家族の間にも亀裂が入ってしまう悲しさ。
震災と原発以降に広まった分断が、こういう場にも現れているのだ。

捨つべしとある日は思ふ われが見捨てられるかもしれない東北を
                 『東北』

第2歌集『東北』(2002年)の中に、こんな歌を見つけてハッとした。

許可車両のみの高速道路からわれが捨ててゆく東北を見つ
              『トリサンナイタ』

震災後に話題になったこの一首の「捨ててゆく」という厳しい言い方の背後には、先の歌が響いているのかもしれない。

あとがきの日付は「二〇一六年二月二十九日」。
竹山広の誕生日である。

2016年4月8日、すいれん舎、1400円。

posted by 松村正直 at 23:44| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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