2012年から13年にかけて7回にわたって「新潮45」に連載した「戦後史の風景」に加筆・修正を施して改題したもの。
大きな事件が起きるたびに「これで日本は変わる」と人々は言う。けれども
しばらく時間が経てば自体は平穏を取り戻し、社会は結局、何も変わらなかった。
それは何故なのか、というところから著者の思考はスタートする。そして、戦後の大きな事件やブームとその現場を訪ねつつ、そこに人々が見ようとした「風景」を探り当てていく。
取り上げられるのは、「沖縄」「連合赤軍事件」「田中角栄『日本列島改造論』」「村上春樹『ノルウェイの森』」「宮崎勤事件」「オウム真理教事件」「酒鬼薔薇聖斗事件」「秋葉原連続殺傷事件」。
この本で語られる「風景」とは、単に目に見える景色のことではない。私たちの先入観や解釈や気分といったものによって形作られる「風景」のことである。
現実を前にして私たちは物語、つまり出来事を解釈する枠組みを求める。世界を、ただ事実の偶然の連なりとしてではなく、意味の連関を持った統一体として見たい、そんな欲望は抗いがたい。それは世界をひとつの「風景」として見ようとする欲望に通じる。
この「風景」という切り口を用いて、著者は戦後の日本の歩みそのものを問い直しているのである。
2014年5月25日、新潮選書、1200円。