副題は「領土、主権、イデオロギー」。
タイトルには「国境学」とあるが、実際は本の中で何度も使われる「ボーダースタディーズ」という言葉の方が相応しい内容である。国境を含めた様々なボーダー(境界)がどのように生まれ、人々の暮らしにどのように影響を与えるかを述べ、さらには机上の論にとどまらず、実際の国境問題等に関する政策的な提言も行っている。
国境というものは人間が生み出したものである。それは時代とともに変化することがある。ソ連・東欧の社会主義圏の崩壊やEUの拡大などを踏まえて、著者は
国家のスクラップ・アンド・ビルドは、境界の喪失=「脱境界化」(de-bordering)と境界の誕生=「再境界化」(re-bordering)、そして「越境化」(trans-bordering)という三つの現象を同時に生じさせるものとなった。
と述べる。境界であった場所が境界でなくなるとともに、別の新たな境界が生まれる。さらに、境界を超えた人や物の移動によって境界は絶えず揺さぶりを受ける。境界や国境というものは決して固定したものではなく、常に組み替えられ、流動するものだというわけだ。
本書で具体的に取り上げられているのは、ベルリンの壁、ベルファストのピースライン、イスラエルのグリーンライン、板門店、アメリカとメキシコの国境、中露国境、竹島、北方領土、尖閣諸島、稚内、根室、対馬といった場所である。
領土問題、移民問題、安全保障、地域振興といった様々な問題を含んだ「ボーダースタディーズ」は、今後大きな可能性を秘めているように感じる。
2016年3月25日、中公新書、860円。