副題は「オリエントグルメ旅」。
音楽評論家で料理研究家でもある著者が、トルコ、レバノン、モロッコ、イスラエルなどを訪れて、現地で食べた料理や教わった料理をレポートしたもの。初出は双葉社文芸WEBマガジン「カラフル」2013年7月〜16年2月配信。
中東の旅行記でもあり、中東料理の紹介でもあり、また中東料理の作り方の本でもある。巻頭にはカラー写真が多数載っていて、鮮やかな色彩や見たことのない料理に想像が膨らむ。
長年、トルコ料理と日本料理を食べ比べてきたが、日本のほうがはるかに量が多いものを初めて見つけた。(・・・)かき氷だけは日本のほうが何倍も大盛りだ。なぜなんだろう?
現地の人とのやり取りも面白い。普段は当り前に思っている日本の食生活が、実は当り前ではないことに気づかされるのだ。
「野菜は必ず手にとって、状態を調べてから買うようにして下さいね。えっ、日本では野菜は全部袋に入ってるんですか?」
「羊肉はできるだけ新鮮なものを使ってね。えっ、日本では新鮮な羊肉を手に入れるのが難しいのですか?それは残念ですね」
食の話を通じて、国境や民族、宗教についても考えさせられる話が出てくる。
現在の世界地図だけ見ていると、タジキスタンから(イスラエルに)来た彼女たちが、ウズベキスタンの都市であるブハラの料理を作る理由がわからないかもしれない。
トルコ人が知らずにいるイスラエルとトルコの共通性を、好事家のポーランド人や日本人が知っているというのもおかしな話だが、外の人間だからこそ見えてくるものもあるのだろう。
料理や音楽は国境を越える。
それを経験し自らも実践している著者は、なんとも楽しそうだ。
2016年3月13日、双葉文庫、833円。