短歌人編集人たりし二十五年ただ黙々ときみあればこそ
小池光『思川の岸辺』
よくやつたとほんとに思ふわたくしを出さず抑へて来し三〇年
こんなにも力を注ぎ来しことを見てゐてくれしは妻なりし人
永田和宏「三〇年に三〇年」(角川「短歌」2014年6月号)
二人が「二十五年」「三〇年」という歳月を振り返りつつ、そこに妻の存在を詠み込んでいることが印象深い。それだけ結社のトップというのは孤独なものなのだろう。誰にもわかってもらえない苦労があり、でも妻だけはわかってくれているという思いが、かろうじて心の支えとなっているのである。
「塔」の30周年記念号の編集ノートに永田は
一世代、二世代……と数えてゆくときの、一世代という時間は三十年に当たるのだそうだ。「塔」が創刊されてから三十年、丁度一世代分の時間が流れたことになる。
「塔」ばかりではない。この数年、多くの短歌雑誌で三十周年の記念号が編まれた。多くは、いわゆる〈戦後派〉と呼ばれた歌人たちによって戦後のある時期、競うようにして創刊された結社である。それらいわば同級生、同期生に当たる結社が、ともに三十年という時間を生きてきて、いまいっせいに世代交代の時期にさしかかったのだと、私たちは考えたい。
と記している。自らが結社を「三〇年」率いることになるという現実を、永田の言葉は既に先取りしていたかのようでもある。
厳父のような主宰は求められてない今、選者として、先生として、長兄として、実作者として、そして、編集者として、主宰も中々大変でしょう。
でも私も欲が深いですから、…。