2016年04月17日

『森岡貞香の秀歌』 の続き

引用されていた歌の中から、特に印象に残ったものを。

薄氷の赤かりければそこにをる金魚を見たり胸びれふるふ
                『白蛾』
ぬかるみは踏み場なきまで足跡がうごめきてをりきのふも今日
(けふ)も           『未知』
今日もむかし夏のゆふべに倒れゐる空罐に雨かがやきてふる
                『珊瑚數珠』
新萌の欅木立にカ音もて入りこむものが鴉にてある
                『黛樹』
ゆふかたにかけて久しく煮こみゐる大き魚はかたち没せり
                『黛樹』
十三夜の月さし入りて椎の實のころがる空池(からいけ)のなかの
あかるし            『百乳文』
昨(きそ)ひと夜ゆたんぽ抱けば追熟といふべくわれのやはらかに
ある              『夏至』
朝光(あさかげ)のひろびろしきに昨(きぞ)の夜のつきかげありし
あたりを掃きぬ       『敷妙』
覆はれて見えずなりゐる川なればここは呑川といひて道踏む
                『九夜八日』
薔薇のつる雪の重みに下りゐしなほくだりこむと椅子にゐておもふ
                『九夜八日』

こうして見ると、「きのふ」「きぞ」「今日」などの時間を指す言葉、「そこ」「ここ」などの場所を指す言葉が、不思議な効果を生み出しているのがわかる。

posted by 松村正直 at 10:38| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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