宮大工の小川三夫の話を塩野米松が聞き書きしたもの。
取り上げられている寺は、法隆寺、法輪寺、法起寺、薬師寺、唐招提寺、東大寺、興福寺、元興寺、十輪院、室生寺、秋篠寺、長弓寺の12か所。
法隆寺の建立当時の大工道具についての説明に、
縦挽きの鋸はなく、板を挽いたり、角の柱を挽いたりは出来ませんでした。表面を平らにする台鉋も鎌倉後期から室町まで伝わっていません。大きな木を割るには楔を打って割りました。
とある。それであの見事な金堂や五重塔を建てたのだ。あらためて、その苦労や技術に驚かされる。
塔には安定感と同時に、動きがあると、美しさが増します。
芯柱というのは、実は塔の構造には関係がありません。一番てっぺんの相輪を乗せるだけの役目です。
屋根反りは縄ダルミみたいな曲線がいいんです。棟に立って縄の端を持つ。それで軒でそれを受けて持ちますと、縄が美しい曲線をつくります。
こうした指摘は、実際に寺の修復や建築に携わっている著者ならではのものだろう。そこが、単なる観光案内とは大きく違っている。
建物を、姿や様式、部材を個別に判断するんじゃなく、風景の中で建物を見ることも大事ですな。
法隆寺や薬師寺、室生寺など、そう言えば中学の修学旅行で訪れたきりだ。せっかく関西に住んでいるのだから、また行ってみよう。
2010年7月20日、文春新書、905円。