彩帆なるうつくしき名を持つ少女/サイパンといふうつくしき島
山田航『水に沈む羊』
という一首を読んで思い出すのは、半田良平の「信三を偲ぶ」という一連。
生きてあらば彩帆島にこの月を眺めてかゐむ戦ひのひまに 『幸木』
彩帆はいかにかあらむ子が上を昨日(きのふ)も憂ひ今日も憂ふる
彩帆にいのち果てむと思はねば勇みて征きし吾子し悲しも
昭和19年7月、戦局を伝える報道を聞いてサイパンにいる息子の安否を気づかう内容である。半田の3人の息子のうち、次男克二は昭和17年に、長男宏一は18年に病気で亡くなっており、三男信三は唯一残った男の子であった。
昭和20年の始めには
サイパンに生き残れりと思はねば今宵は繁(しじ)に吾子ししぬばゆ
とも詠んでいる。信三ももう帰ってくることはないという悲痛な思い。
この歌は「床上詠」という一連に入っており、半田良平自身もこの歌の数か月後には亡くなるのである。