かつて駒場寮の第132期寮委員長を務めた著者が、1993年の入寮当時の思い出や、戦前から続く自治寮としての歴史、さらには駒場寮の存続運動や最後の日々を綴ったノンフィクション。
単なる青春時代の回顧にとどまらず、一つの学生寮の歴史を通じて日本の社会や政治のあり方までも見えてくるところが面白い。いろいろと考えさせられる一冊だ。
九州出身の黒川や光内と、気づいたことが一つある。それは、東京は自分たちが暮らしていた西日本に比べて、朝が早くやってくる、という事実だった。
こうした何気ないディテールに、初めてふるさとを離れて暮らし始めた当時の実感がよく表れている。
一研の裏には、ロールプレイングゲームの隠し部屋のような、意外な位置に安い床屋があって、90年代にも営業を続けていた。
何とも懐かしい。学生時代、ここで何度も髪を切ってもらったことがある。
駒場寮は多くの有名人を輩出している。歴史を振り返る中で、小柴昌俊、畑正憲、亀井静香、柄谷行人、内田樹、野田秀樹、堀江貴文といった人の話やエピソードが次々と出てくる。
10年にわたった存続運動や裁判の末に、2001年に駒場寮は解体された。けれども寮にあった膨大な量の記録文書は奇跡的に残され、現在も無事に保存されているそうだ。
この本もその記録に基づいて書かれた部分が多いとのこと。記録や資料を残すことの大切さをあらためて感じさせられた。
2015年12月10日、株式会社KADOKAWA、1800円。