2016年03月27日

山田航歌集 『水に沈む羊』


短歌176首と長歌1首を収めた第2歌集。

花と舟と重なりあひてみづうみを同じ速度で流れゆく見ゆ
〈失はれた十年〉は過ぎしきしまのやまとに止まぬPHANTOM PAIN
白樺の姿勢ただしく終はりなき行軍のごとき防風林よ
大根は天衣のごとく干されゐて水路は朝のひかりへ潜る
スタッフロール流れ始めてゆふやみの窓のごとくに液晶が灯る
振り上げた鎌のかたちの半島の把手あたりにひかるまほろば
監獄と思ひをりしがシェルターであつたわが生(よ)のひと日ひと日は
彩帆なるうつくしき名を持つ少女/サイパンといふうつくしき島
改札をくぐるときのみ恋人はほぐれけり春の花びらのごと
食パンの耳の額縁そのなかに少し呆れた顔のモナ・リザ

1首目、舟に落ちた花びらが運ばれて行く。「ふ・ね」と「は・な」の音の響き合いがよく効いている。
2首目の「PHANTOM PAIN」は幻肢痛。切断してないはずの手足が痛む症状のこと。3句以下の音の響きがいい。
5首目、映画が終って、まだ暗い場内で観客が携帯電話の電源を入れ始めている。
6首目は下北半島のことだろう。下句は六ヶ所村の核燃料再処理施設と読む。
8首目、「あやほ」「さほ」という女性の名前と、戦前のサイパンの漢字表記「彩帆」の取り合わせ。
9首目、待ち合わせ場所でこちらに気づいた時の、はにかむような微笑み。
10首目の歌から始まる連作「ふたりぼっちの明日へ」は、不妊治療とその断念を詠んだ内容で、歌集の中で一番心に残った。

2016年2月28日、港の人、1200円。

posted by 松村正直 at 07:17| Comment(2) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
鎌型の半島ですが、函館山はいかがでしょうか?夜景が素晴らしいと聞いておりますが。
或いはもっと大きく渡島半島も鎌に見えるようにおもわれます。
Posted by 谷口美生 at 2016年04月14日 14:31
そうですね。函館はなかなかいい案かもしれません。把手あたりが町ですからね。ただ「振り上げた」という向きではないような。

渡島半島という読みも、どこかで読んだことがあります。その場合はどういう向きになるのかなあ。

Posted by 松村正直 at 2016年04月15日 22:28
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