うなぎを題材にした文学作品10篇を収めたアンソロジー。
収録されているのは、内海隆一郎「鰻のたたき」、橋治「山頭火と鰻」、岡本綺堂「鰻に呪われた男」、井伏鱒二「うなぎ」、林芙美子「うなぎ」、吉行淳之介「出口」、吉村昭「闇にひらめく」、樹のぶ子「鰻」、浅田次郎「雪鰻」、そして最後は斎藤茂吉の短歌となっている。
鰻という題材はエロスと結び付きやすいようで、男と女の話が多い。そんな中にあって一番印象に残ったのは、戦時中を舞台にした浅田作品であった。
俺は参謀や副官たちのひとりひとりに向かって、挙手の敬礼をした。俺が選ばれた理由はわかっていた。つらい任務を果たしたからではなく、齢が若いからでもなかった。後方からの能天気な命令が届いたとき、たまたまそこに俺が居合わせなかったからだった。
というところなど、実によく人間心理が表されている。
無性に鰻が食べたくなってきた。
2016年1月10日、ちくま文庫、780円。