季刊誌「楽園」の2006年4月号〜2015年4月号までの連載に、大幅に加筆修正を行い、再編集したもの。
『三省堂国語辞典』編集委員を務め、「国語辞典編纂者」の肩書きを持つ著者が、コミュニケーションや分かりやすい表現などについて、言葉の面から記している。
ことばの中には、指すものの実態が変わっても、なおも使われ続けているものが少なくありません。靴を入れても「下駄箱」、ペンを入れても「筆箱」と言うのは、その典型的な例です。
従来の常用漢字表にあって、すでによく使っている漢字も、改めて見ると、活字のとおりに書くとおかしいものがあります。典型的なのは「人」です。誰だって、こんなとんがり屋根のような形には書きません。
一般に、形容詞を多用すると、感情や評価を含む主観的な表現になりがちです。一方、動詞を使うと、批判も称賛も含まない、客観的な言い方がしやすくなります。このことは、形容詞「汚い」と動詞「汚れる」を比較するとよく分かります。
最後の引用部分は、短歌にも関わる内容であろう。さらに、形容詞の中にも、「うれしい」「おそろしい」「恥ずかしい」などの感情形容詞と、「広い」「長い」「赤い」などの属性形容詞があることが別の個所で述べられている。
このあたり、少し前にブログに書いた「描写の言葉」と「心情の言葉」の話とも、深く関係してくる。
2015年5月1日、PHP新書、780円。