『日本建築集中講義』の名コンビが、今度は「トーハク」こと東京国立博物館を見て回って書いた(描いた)案内書。二人の本音かつ時にとぼけたやり取りが面白い。
表慶館の屋根裏や五棟の茶室、館長室など、一般の人が入れない場所にも潜入して、その様子を伝えてくれる。
印象に残ったところを2つ挙げる。
1つは高橋由一筆「酢川にかかる常盤橋」について山口が
この人は「リアリズム」といっても本質を描くんじゃなくて、絵画性を一切打ち捨ててとにかく再現性に特化した人。描いたモノはわかるんですが、主題がまったく見えてこないのがおもしろいですね。
と書いているところ。
もう1つは、初代の本館がイスラム様式で建てられたことについて藤森が
「美術館」というシステム自体、西欧の概念で造られていて、機能としても西欧的。ただ、日本の伝統を意識する以上、ヨーロッパ建築をそのまま造るわけにはいかない。
と述べ、東洋と西洋の間を取ってイスラム様式を取り入れたと指摘しているところ。
どちらにも明治時代の日本の苦闘が滲み出ている。
2015年12月1日、淡交社、1700円。