2016年03月10日

池田はるみ歌集 『正座』

青磁社
発売日 : 2016-01-21

2010年から2015年までの作品427首を収めた第6歌集。

箸立てに箸が咲いてるゆふまぐれ二本をぬいてうどん食ふひと
らつきようは瓶の中にて眠るひと小さいあたまを酢につけながら
ゆりの木のいちまいの葉は留まれば夕日のなかに散りてゆきたり
冬の日の寒いはずだよ我でさへこのごろ本はパソコンで買ふ
決めたがる男(を)を立てながら誘ひこむ昭和のをんな少なくなりぬ
日本の鰻はふつくらやはらかし靴をそろへて座敷に上がる
鰤(ぶり)炊けば蒼き男の臭ひせり海原ゆきしをとこの群の
ながい長いまつげの人が近づいて長いまつげを勧めてくれぬ
陽だまりのやうな時間があるといふ丸椅子の上がさうかもしれぬ
こんなにもすずめのゐない町となり朝に夕べにわれは寂しも

1首目、「咲いてる」がいい。無造作に広がるように立っている。
2首目、言われてみれば確かに「小さいあたま」という感じ。
4首目、「寒いはずだよ」から三句以降へのつながりが因果関係になっていないところがいい。
5首目、男性を立てつつ自分の思い通りの結論へと導いていた、かつての女性のしたたかさ。
6首目、上句と下句の時間が前後しているのが面白い。
8首目、まつげエクステの販売員だったのだろう。「長いまつげ」の繰り返し。
10首目、近年、雀が減っているというニュースがあった。シンプルに思いを述べた歌。

あとがきに「昔ひとりの息子を産みました。ひとりの息子から三人のあたらしい命をさずかりました」「孫が居ることによって知らなかった不可思議な世界が現れてきました」とあるように、孫を詠んだ歌が多くある。

連作としては「大鵬とその父」26首が印象に残った。これについては、雑誌に載った時にこのブログで取り上げたことがある。
http://matsutanka.seesaa.net/article/387139098.html

2016年1月21日、青磁社、2600円。

posted by 松村正直 at 10:06| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。