1987年に平凡社から刊行された本の文庫化。
1986年1月から8月にかけて取材した7つの工場について、エッセイとイラストで記した訪問記。
取り上げられているのは、「人体標本工場」(京都科学標本)、「結婚式場」(松戸・玉姫殿)、「消しゴム工場」(ラビット)、「酪農工場」(小岩井農場)、「コム・デ・ギャルソン工場」、「コンパクト・ディスク工場」(テクニクス)、「アデランス工場」の7つ。このちょっと変った選びにも、著者のセンスが光っている。
文章は軽快で楽しい。それだけでなく、鋭く本質へと切り込んでいく。
人々は結婚式というセレモニーにおいて感動もし、涙ぐんだりもする。しかしもし涙ぐんだとしても、その涙は一定の時間をもって収束するように設定されている。
かつらというのは非常に特異な商品なんです、とアデランスの広報担当者は言う。何が特異かというと「クチコミがまったくない」ということである。
書かれているのは30年前の話なので、今とは異なっている部分も多い。そのことが、むしろこの本の価値を高めているように感じた。時代の記録にもなっているのである。
CDの生産が現在のところまだ需要に追いついていないということ。要するにとてつもなく忙しいのである。
これらの工場が30年後の今はどうなっているのか、続篇が読みたい気がする。
1990年3月25日発行、2014年5月15日16刷、新潮文庫、710円。