副題は「世にないものをつくる闘い」。
「883系特急ソニック」「九州新幹線800系」「ななつ星in九州」など数々の鉄道車両をデザインしてきた著者が、仕事をする上での心構えや信念を記した本。内容的にはビジネス書と言っていいだろう。
自分の力で人生を切り拓いてきた人の持つ強さが言葉の端々に表れている。そういうタイプはどちらかと言えば苦手なのだが、著者のデザインに対する考えや仕事に対する思いには共感することが多い。
椅子のメーカーが椅子を設計するとダメなんです。彼らは技術的に自分が一番得意な技の中に形をはめようとするんで、昔の流れを汲んだものしかできてこないんです。
人間工学のダメな点は、人間が同じ姿勢でずっと座ることを前提にしている。人間って、椅子に座って同じ姿勢でいられないようになってるんです。
豊かな国には、やはり仕事の種類がたくさんあります。無駄な仕事もたくさんあって、多くの人が生きていくためのいろんな仕事がたくさんある国が素晴らしい国ですよ。
勘でこの色がいいとかこの形でいいとか決めて当たったときは、それはその人が蓄積したノウハウがたくさんあるからであって、それは十分一生懸命生きてきた証と言っていいと思います。
雑事っていうと低く見る人がいるけど、仕事は雑事が大事ですから。段取りさえ全部できて、雑事ができれば、仕事はもう70パーセント、80パーセントできたも一緒です。
著者は鉄道車両のデザインにとどまらず、乗務員の制服やロゴマークなどもすべてデザインする。さらに、駅舎のデザインや船のデザインもやるし、将来的には街づくりのデザインも手掛けたいようだ。
デザインの持つ力や可能性を強く感じさせてくれる一冊である。
2015年6月29日、日経BP社、2000円。