帝都大学教授の鬼酣房(きかんぼう)先生が残した原稿を、編者の品田さんがまとめたという体裁のエッセイ集。大学の校友会誌や学内報に載ったものに書き下ろしを加えて一冊としている。
内田百閧フ「百鬼園先生」や松下竜一の「松下センセ」のような感じで、品田さんの分身である「鬼酣房先生」が登場する。エッセイではわりとよくあるスタイルなのかもしれない。
ことによると〈教科書・読本〉は「テキスト」で、〈言葉で織り出されたもの〉なる高級な概念は「テクスト」、というような使い分けが成立しているのかもしれません。でもそれは英語人の与り知らぬことですよね。
ある日、東海道新幹線で関西方面へ向かっていたときのこと――熱海付近で車両がトンネルに入ったのだが、子息がトンネルを経験するのはこのときが生まれて初めてだった。彼は思わず叫んだ。
「あれえ。おんもなくなっちゃったよ。」
順番にKKS・GSS・SIS・GSIS・KYS・SKS・SZS・SKKS……なんだかお分かりになりますか。
実は、北米の日本文学研究者のあいだで通用している勅撰和歌集の略称です。
『古今集』『後撰集』『拾遺集』と来て、『後拾遺集』『金葉集』『詞花集』『千載集』『新古今集』……この先も二十一代集の分がすべて揃っていますが、もうたくさんですね。
全体が4章に分かれていて、内容的には雑然としているのだけれど、読んでいくとけっこう面白い。いつの日か続篇も出るのだろうか。
2015年7月20日、青磁社、1500円。