副題は「考えさせない時代に抗して」。
前半は「西日本新聞」に50回にわたって連載されたエッセイ、後半はさまざまな場に書かれた文章を集めた一冊。気楽に読める内容であるが、いろいろとヒントを与えられる。
授業は教師のパフォーマンスの場ではない。そんな授業は、ちょうど体育で教師だけが運動しているようなものだ。
根拠のない自信は強い。なんたって根拠がないんだから。誰も覆せない。
考えることは雨乞いのようなものである。こうすれば必ず答えが降りてくるなんてマニュアルなど、ありはしない。
人との出会いってほんとうにだいじだなと思いますね。話している内容だけでなく、その話し方、声の調子、表情、そうした活字では伝えきれない力が直に伝わってくる。
次のような箇所は、短歌にも共通する話だと思う。
あなたは自分ではよく分かっていることを書く。しかし、読む人はそうではない。このギャップに無頓着だと、伝えたいことが相手に伝わらない。
芸術的表現の場合には、書きたいことが明確でない場合もしばしばであり、むしろ、書くことによってはじめて、自分が何を表現しようとしているのかが形になってくる。ときには、読者の深読みによってようやく、著者の意図が姿を現わすということも起こる。
もちろん、哲学の本なので「バラは暗闇でも赤いか?」とか「「犬」ってどういう意味?」といった話も載っている。ああでもない、こうでもないと考えながら、自分でものを考えることの楽しさを実感できる。
2015年10月27日、講談社、1350円。