全国各地の小さな城下町20か所を訪ね歩いた紀行文。
「オール讀物」に連載された17篇に書き下ろし3篇を追加している。
ぼくの城下町の好みは十万石以下あたりにある。そのくらいの城下町が、一番それらしい雰囲気を今も残している。
この本の一番の特徴は、この町選びの方針にある。観光地としてはあまり有名でない町が多い。僕も日本全国かなりの町を旅している方だと思うけれど、20か所のうち行ったことがあるのはわずかに6か所であった。
単なる旅行記ではなく、エッセイの要素も多く含んでいて、だいたい自分の若い日の思い出から話が始まる。ガイドブック的な客観性よりも、作者の好みや癖が濃厚に滲み出ていて、それが面白い。
特徴の一つは、歴代の藩主をきちんとたどることである。どこも小さな藩だったところなので、藩主が転封や改易などで次々と変わる。それを「誰々が何万石でどこそこから移って来て・・・」と丁寧に記す。
もう一つの特徴は、すべて列挙することである。例えば、日本三大桜の一つ「三春の滝桜」の名前を出したら、必ず他の二つの「根尾谷淡墨桜」と「山高神代桜」も挙げる。一つだけでやめない。
「最上八楯」の一つである天童氏の名前を出したら、他の七氏の名前もきちんと挙げる。「西尾五か所門」も「賤ヶ岳の七本槍」も「日本三大山城」も「真田十勇士」も、全部の名前を平等に書き記すのである。
そこには
ぼくは子供の頃から変なところがあり、映画でも小説でも芝居でも、妙に傍役に惹かれるところがあった。
という性格も関係しているのだろう。
作者の持ち味が十分に発揮されて楽しい一冊である。
2014年6月25日、文藝春秋、1400円。