2016年01月31日

森井マスミ歌集 『まるで世界の終りみたいな』


2009年から2014年までの作品395首を収めた第2歌集。

絵画、演劇、小説、映画などを踏まえて詠まれた意欲的な連作が多い。また、イラク日本人外交官射殺事件、インドのバス集団強姦事件、岡崎市の冷凍乳児遺体遺棄事件などに取材した時事詠・社会詠も多い。

悪夢なら覚めればよいが 現実と夢の境を漏れ出す汚染水
死はいづれやつてくるバスのやうなもの 待つひとのないバスはからつぽ
老婆のうちに、少女は眠る 時折は、少女が目覚め老婆眠れり
もはや神はひとを裁かぬ 自動式洗浄トイレに水は渦巻く
減るだけの時間の嵩に身を寄せて ひとは逆さにできぬ砂時計

1首目、福島第一原発の汚染水。とめどなく漏れ続ける汚染水をどうすることもできない。
2首目、「からつぽ」という言葉の空虚感。いつやって来るかはわからない。
3首目、夢の中で少女の頃に戻っているのか。現実と夢が入り混じり、どちらがどちらかわからなくなる。
4首目、詞書に「かつて洪水は神の裁きだつた」とある。「神」と「自動式洗浄トイレ」の取り合わせの面白さ。
5首目、時間は一方向に進み、人は永遠に若返ることはない。

2015年10月25日、角川文化振興財団、1800円。

posted by 松村正直 at 12:46| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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