2016年01月20日

岡本太郎著 『神秘日本』


1964年に中央公論社から出た単行本の文庫化。

日本にある神秘的なもの、芸術の根源となるものを探して、恐山のイタコ・川倉の地蔵堂(青森)、出羽三山(山形)、壬生の花田植(広島)、熊野(和歌山)、高野山(和歌山)、神護寺(京都)を訪ね歩いたエッセイ。

単なる物見遊山の記録ではなく、信仰とは何か、芸術とはどうあるべきか、といった考察が随所にあり、民俗学的な視点も含まれている。

イタコは神おろしの時にだけ、みんなが言うことを聞き、尊敬するけれども、ふだんは全然知らん顔して、むしろ軽蔑している。
信仰の素朴な根はいわゆる神社、お寺などの重たい形式・儀式で、厚くおおわれており、われわれは生れた時から、そういう出来上ったパッケージングしか見ないし、見せられていない。
受け入れられなければならない、と同時に絶対に受け入れさしてはいけないのだ。その矛盾した強力な意志が、それぞれの方向に働く。よく私が芸術は好かれてはいけない、と象徴的にいうのは、まったくその意味なのだ。

岡本の日本文化に寄せる情熱的な関心は、伝統重視やナショナリズムによるものではない。

はじめ、私は「日本人」であるよりも、「世界人」であればよいのではないかと考えた。青春の十年以上もパリに住み、世界のあらゆる文化圏に通ずる場所で、世界人になりきろうと努力し、実践した。

その上で彼は「日本人としての存在を徹底してつかまないかぎり、世界を正しく見わたすことはできない」と考えたのである。50年以上前に書かれた文章であるが、グローバリゼーションが叫ばれる現在にも十分に当て嵌まる問題であろう。

2015年7月25日、角川ソフィア文庫、1000円。

posted by 松村正直 at 22:32| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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