副題は「クレオパトラ宮殿から元寇船、タイタニックまで」。
テキサスA&M大学大学院文化人類学部で水中考古学の学位を取得し、現在は日本水中考古学調査会会長を務める著者が、日本ではまだあまり知られていない水中考古学についてわかりやすく記した一冊。
取り上げられている船は、ウル・ブルン船(トルコ)、メアリー・ローズ号(イギリス)、バーサ号(スウェーデン)、元寇船(佐賀)、アーヴォンド・ステレ号(スリランカ)、サン・フランシスコ号(千葉)、エルトゥールル号(和歌山)、タイタニック号(大西洋)、宋代海船(中国)、新安沖商船(韓国)、ハーマン号(千葉)など。
海の底からタイムマシンのように引き揚げられた遺物から、歴史の新たな事実が見つかることも多い。
ウル・ブルン船が発掘される以前は、もっぱら古文書やエジプトの壁画を頼りとして交易物資の内容が予想されていた。当時の交易品の主力のひとつが銅であったが、ウル・ブルン船はその交易の様子を伝えてくれる具体的事例となった。
バーサ号の発見によって、一七世紀の軍艦の構造をめぐる激しい論争が終わりをつげている。
(「てつはう」は)当初は元軍が撤退する時の目くらましとみられていたが、X線調査によると、内部に一辺が二〜三センチ、厚さ一センチほどの小さな鉄片が詰まったものが発見されており、殺傷能力の高い散弾式武器と判明し、これまでの定説をくつがえしている。
「世界の海にはまだ三〇〇万隻もの沈没船が眠っている」そうだ。島国日本にとって水中考古学は、今後の発展が楽しみな分野と言っていいだろう。
2015年10月25日、中公新書、800円。