2016年01月09日

井上亮著 『忘れられた島々「南洋群島」の現代史』


西太平洋に点在するマリアナ諸島(グアムを除く)、カロリン諸島、マーシャル諸島など、ミクロネシアと呼ばれる地域は、ヴェルサイユ条約により日本の委任統治領となり、1945年の敗戦まで「南洋群島」と呼ばれる実質的な日本の領土であった。

昨年4月の天皇、皇后によるパラオ訪問により再び注目を集め始めているこれらの地域の歴史を、丁寧かつコンパクトにまとめた一冊。

戦前の南洋群島が日本にとって大きな意味を持っていたことが随所に述べられている。それは「陸軍、北進論、満州、南満州鉄道株式会社」に対する「海軍、南進論、南洋群島、南洋興発株式会社」という図式になるだろう。

著者は「沖縄戦が国内で住民を巻き込んだ唯一の地上戦」といった言い方に異を唱え、「住民を巻き込んだ最初の地上戦は一九四四(昭和一九)年六月からのサイパン戦」であると述べる。これは非常に重要な指摘だろう。

私たちは、つい現在の国境線で国内を捉えてしまいがちだ。けれども、それは戦前の実態とは違う。これは、戦後日本領ではなくなった樺太についても同じことが言える。

タラワ、マキン、ルオット、クェゼリン、サイパン、テニアン、ペリリュー、アンガウルと続く激しい戦闘や、サイパン、テニアンの飛行場から飛び立ったB29による空襲、原爆投下のあたりの記述は読むのが辛い。けれども、そうした歴史を忘れることなく、記憶に刻んでおくことが大事なのだろう。

なぜなら、こうした島々の地政学的、戦略的な価値は、昔も今も変わらないからである。例えば現在の沖縄の米軍基地問題を考える際にも、そうした視点は必要になるに違いない。

2015年8月11日、平凡社新書、760円。

posted by 松村正直 at 06:46| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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