年祝ぐとうから華やぐ夜の卓にくばられて来し採用通知
昭和十九年一月一日と墨匂ふ辞令大きくいただきてわれは
増産をめざす現場は勢ひ居む電話絶ゆるなし原木課製材課の卓
朝開く二号金庫の冷え切りて静かに音するその重量感
暗号電話ひねもすせはし事務の窓こころ落ちつけて札数へゐぬ
「新職場」20首より。
「樺太製材株式会社就職」と注がある。
作者は昭和14年に子供の教育のために樺太日日新聞社を退社し、真岡から豊原へ転居。樺太医薬品配給統制株式会社を経て、樺太木材株式会社に就職した。
1首目、新年の祝いの場に採用通知が届いて、何ともめでたい正月となった。
2首目、「大きく」に新たな仕事に取り組む意気込みが感じられる。
3首目、戦時中ということで、樺太での木材の供給も急ピッチで進められている。
4首目、作者は出納主任を経て用度課長となった。お金を扱うことが多かったのだろう。
5首目、「暗号電話」というところに、仕事が戦争に直結している緊迫感が滲む。