2016年01月07日

梯久美子著 『廃線紀行』


副題は「もうひとつの鉄道旅」。

2010年から2014年まで、読売新聞の土曜夕刊に連載された「梯久美子の廃線紀行」から50本を選んでまとめたもの。北は北海道の国鉄根北線(こんぽくせん)、南は鹿児島の鹿児島交通南薩線まで、全国各地の廃線跡を訪ね歩いている。

一か所につき4ページとコンパクトであるが、地図とカラー写真も入っているので、実際に廃線跡を訪ねる際のガイドブックとしても使える。また、随所に著者の鋭くも温かな考察が記されている点も見逃せない。

根北線は、大正時代からの誘致活動がやっと実って開通した路線だった。鉄道が、明るい将来の象徴だった時代が確かにあったのだ。(根北線)
いまではさびれてしまった御坊の町だが、古い商家や木材協同組合の建物などが残り、かつての賑わいをしのばせる。日高川の堤防に立って太平洋を眺めると、この海を越えて大都会とつながろうとした、昭和初期の人々の思いが伝わってくる気がした。(紀州鉄道)
鉄道には人や物を運ぶだけでなく駅を中心とした生活圏を作る役割がある。それがなくなることは、地域の暮らしの拠点が失われてしまうことなのだと気づかされた。(大分交通耶馬渓線)

『散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道』などの著作で知られるノンフィクション作家と廃線探訪の取り合わせは少し意外な気もするが、歴史をたどるという点では共通するものがあるのだろう。

地面の上を水平方向に移動するのは地理的な旅であるが、廃線歩きにはこれに、過去に向かって垂直方向にさかのぼる歴史の旅が加わる。
土地は歴史を記憶する―(…)そこへ行き、自分の足で地面を踏みしめることで、過去への回路が開かれるのだ。

「おわりに」に書かれたこうした文章に、非常に共感を覚えた。

2015年7月25日、中公新書、1000円。

posted by 松村正直 at 06:01| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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