副題は「文化財の保存と修復」。
平城遷都1300年祭の公式キャラクター「せんとくん」の生みの親である著者は、彫刻家であるとともに、東京藝術大学大学院の文化財保存学の教授でもある。
本書では、文化財保護に関する一般的な知識や日本の仏像彫刻の歴史、さらに実際の修復例の様子などが記されている。
芸術は、機械や科学技術のように一方向には進化しないことがわかります。芸術表現は、変容はしても、進化はしないのです。
というのが、著者の基本的な考え方である。仏像の修復は修復だけが目的ではなく、修復を通じて古典技法を研究・取得するという意義があるのだ。
「彫刻でも絵画でも、写真で大きく見えるものは傑作と相場がきまっています」という指摘や、平重衡による南都(奈良)焼き討ちが、結果的に「慶派というすばらしい仏師集団の活躍の場を提供し、わが国の彫刻ルネッサンスともいえる鎌倉彫刻の傑作が造り出された」という事実など、興味深い話がたくさんあった。
2015年7月25日、角川選書、1600円。