さくら一もとほころび初めて塀ぬちの明るさよ昼の雨は降りつつ
華街に近き住居の春闌けてさざめき通る芸子らのこゑ
三味太鼓ひびくは何処の部屋ならむ夜靄に濡るる青き板塀
訪ね来て白粉くさき芸妓部屋お茶曳きの妓らは身欠鰊喰み居る
退け前の妓らのうたたね部屋寒く不漁の影響は見すぐしがたき
「栄町界隈」8首より。
真岡の栄町にあった花街の様子を詠んだ一連。
1首目、長い冬が終わり、樺太にもようやく春が訪れた。雨が降っていても、春らしい明るさが満ちている。
2首目、作者の家は花街の近くなので、道を行く芸子たちの話し声が聞える。
3首目、夜になって三味線や太鼓の音が塀の中から響いてくる。
4首目、茶屋を訪ねると、暇な芸妓たちは身欠鰊を食べている。「お茶曳き」は客がいなくて暇なこと。
5首目、春になっても鰊が不漁続きで、花街の客も少ないのだろう。