副題は「芸術風土記」。
1958年に新潮社より刊行された『日本再発見 芸術風土記』の文庫化。
戦後十数年を経た日本の各地を訪れて、そのありのままの姿に触れながら、文化や芸術について考察をしている。訪れた場所は、秋田、長崎、京都、出雲、岩手、大阪、四国。
岡本太郎と言えば、万博公園の「太陽の塔」とCMの「芸術は爆発だ!」くらいのイメージしか持っていなかったのだが、この本を読んで反省した。単なる感性の人ではない。民俗学的な視点の鋭さがあり、文章にも力がある。
なるほど実際は泥のようなものかもしれない。しかしそのままズバリとむき出しにしたら、決してそれは泥くさくないのだ。(秋田)
戦争前まで、町のおかみさんでも上海あたりには下駄ばきで気軽に出かけて行き、かえって東京に出るのをこわがったという。(長崎)
民芸なんて枠をきめて、効果を前もってねらってる以上、民芸らしいものは出来ようが、芸術の凄みとか、豊かなふくらみというものは出て来ないのだ。(出雲)
人が見ている。――見られているという意識によってエキサイトし、逆に自分の中に没入し、我を忘れてしまう。見られるものは見るものであり、見るものは同時に見られるものだ。(四国)
18歳でフランスに渡り、ドイツ軍のパリ侵攻を機に日本に帰ってきた著者の目に、戦後の日本はどのように見えたのだろう。「今日の日本に対する執拗な愛情と憎しみで、身をひき裂かれるような思いがする」と記す著者の情熱が溢れる一冊である。
2015年7月25日、角川ソフィア文庫、1000円。