作者の野口薫明は、大正13年に小学校の教員として樺太に渡り、短歌同人誌「かはせみ」「いたどり」などを発行した。
この街の出はづれ道にさしかかりゆくりなくきけりたぎつ瀬の音
橋の下に砂利すくふ音ざくざくとさむけくしひびく橋を渡るに
今ここゆ下りゆきし馬車は川下の浅瀬の中を渡りゆく見ゆ
浅瀬をかちわたる馬が足もとにあぐるしぶきは白くひかりつ
川越えて行きし荷馬車は砂原に歩みとどめて砂利つめる見ゆ
「豊原郊外にて」5首より。
1首目、樺太の中心地豊原の町外れを歩いていると、川音が聞こえてくる。
2首目、川原で砂利を採取しているのだ。建築用の資材にするのだろう。
3首目、道から川へと降りて行った馬車が浅瀬を渡っていく様子。
4首目、橋の上から眺めていると、水しぶきがきらめく。
5首目、採取した砂利を荷馬車に積んでいるところ。今ならトラックだ。
1931年6月15日、冷光社、1円30銭。