副題は「世界の辺境を旅する」。
2012年に河出書房新社から出版された『異貌の人びと』の文庫化。
ガザ地区のパレスチナ人、バグダッドのロマ、スペインの被差別民カゴ、ネパール共産党毛沢東主義派、ネパールの不可触民、イタリアマフィア、コルシカ民族主義者、北方少数民族など、世界各地の紛争地や、虐げられ差別されている人々を描いたドキュメンタリー。
第六章「気の毒なウィルタ人」では、私が関心を持つ樺太に住む少数民族ニブフ、ウィルタが取り上げられている。『ゲンダーヌ ある北方少数民族のドラマ』の著者田中了やポロナイスク郷土博物館の館長への取材などもあり、たいへん貴重な内容である。
路地に生まれた私には、日本にいてもどこか異邦人だという感覚がある。だから二〇代の頃、海外はかえって居心地の良い場所だった。それほど海外に出なくなった今も、異邦人だという感覚はいつも抱いていくのだろう。
各地に残る差別の現状を描き出すことは、著者にとって単なる興味や好奇心ではなく、自らの出自の問題とあわせて避けて通ることのできなテーマなのだ。
2014年7月10日、文春文庫、640円。