著者の論考の大きな特徴は、一首一首の歌の読みが非常に丁寧なことだろう。丁寧な読みに基づいて話を進めていくので説得力がある。さらに言えば、どの論にも新鮮な発見があって、読んでいて飽きない。
私たちは、ついつい結果論的な歴史観で過去を見てしまう。和歌改良運動が起こり、「歌よみに与ふる書」が発表され、「明星」が創刊される。そういった和歌革新の動きこそが歌壇の主流であり、あとは無視していい。そんな乱暴な歴史観で明治の和歌の歴史を見てしまいがちだ。
御歌所派歌人の税所敦子(さいしょあつこ)について論じる文章で、著者はこう述べる。引用されている税所の歌を読めば、なるほど単に古臭い旧派和歌として無視してしまうには惜しいことがよくわかる。
また、佐藤佐太郎の歌に見られる助詞「て」や「を」の独特な使い方を分析した上で、著者は
佐藤佐太郎はたった一音の助詞にこだわり、それを新たな作品世界を創造する梃子とした。短歌という小さな韻文形式の中では、たった一音、たったひとつの助詞が決定的な力を発揮する。
と記す。これも抽象的な論考ではなく具体的な作品に即して論じているので、助詞の大切さが非常によくわかる。佐太郎についての論であるとともに、著者の短歌観が十分に滲み出た内容と言って良いだろう。
評論の書き方という点でも学ぶことの多い一冊であった。
いろいろと励み中でございます。
じっくり詠みます→じっくり読みます。