2015年10月11日

皆藤きみ子歌集 『仏桑華』 から (その5)

海霧は嶋山こめて今宵ふかし鰊の群来(くき)を人ら語れり
鰊漁場に男女(をとこをみな)も出稼ぎて街に人手なき鰊季に入る
貧しくてあれば日やとひ七円の収入(みいり)羨しむをあはれと思ひつ
身欠鰊(みがきにしん)つくると魚をさきてゐる婢(をんな)は仕事たのしむらしき
頭並めて藁に下げたる鰊より血潮したたる魚鮮(あた)らしき

「鰊季」7首より。

北海道の各地に残る鰊御殿は往時の鰊漁の賑わいを物語るが、樺太においても西海岸や亜庭湾で鰊漁が盛んに行われた。

1首目、春のいわゆる「鰊曇り」の夜に、鰊が産卵のために沿岸へとやって来る。
2首目、街に住む人もこの時期ばかりは漁にたずさわる。内地からも多くの出稼ぎ労働者が樺太に渡って来たらしい。
3首目、1日に「七円」というのは、今で言えばどれくらいの収入なのだろう。
4首目、内臓を取り除いて鰊の干物を作る場面。京都名物の「にしんそば」に乗っているアレだ。大量の鰊を捌く軽快な動きが見えてくる。
5首目、藁縄につないだ鰊を浜に干しているところ。「頭並めて」とあるので、頭は付いたままの状態である。

posted by 松村正直 at 09:29| Comment(0) | 樺太・千島・アイヌ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。