2015年10月10日

皆藤きみ子歌集 『仏桑華』 から (その4)

ビートビンに合図のベルは鳴り渡り凍る夜頃を人動く見ゆ
もろもろの気鑵どよみつつ工場をつつむ蒸気は西風(にし)なびきをり
新進の圧搾機械が吐く蒸気もり上りつつ夜をなびく見ゆ
事業家と農民のこころ相容れぬけはしき事も利にかかはりぬ
一年に三月の操業やうやくにビート完収をつげてきにけり

「製糖期」5首より。

1首目、「ビートビンは原料のビートを貨車より降し、工場よりの合図によりて流送溝に掻き降す露天作業場」という詞書がある。秋から冬にかけての寒い時期、それも夜の屋外の作業である。
2首目、ボイラー(気鑵)から音を立てて盛んに蒸気が立ち昇っている。
3首目、夜空に白い蒸気がなびいている光景。
4首目、「ビートは隔年作なれば農家は耕作を心よしとせず、ビート不足のため製糖は三ヵ月にて完了せんとす」と詞書にある。ビートを栽培する「農民」と製糖会社の「事業家」との思惑にズレがあったようだ。
5首目、ビートの収穫が終わり、工場の稼働も三か月で終わりを迎える。

posted by 松村正直 at 09:02| Comment(0) | 樺太・千島・アイヌ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。