新聞も賀状も着かず迎へたる新春三日凍(い)てきはまれり
夫と吾とかたみに曳ける橇の上に稚児(こ)のやすけさようつつねむれり
自が息の眉にまつ毛に凍りつつ身内にこもるこの生命はや
手をとりてぬがせやる子の手袋に凍りし雪は解けてしづくす
室に置くキャベツ凍りて庖丁の刃さきとほらず零下三十度
「新春」11首より。
樺太で初めて迎えた冬の歌である。
台湾から転居して来ただけに、冬の寒さはいっそう応えただろう。
1首目、新聞も年賀状も届かない正月。雪による遅配だろうか。
2首目、小さな子を橇に乗せて雪道を歩いている場面。気持ちよさそうに子は眠っている。
3首目、厳しい寒さのために、吐いた息が眉やまつ毛に触れて凍ってしまう。それはまた、自分が生きていて熱を持っていることの証でもある。
4首目、自力では脱げない手袋を脱がせてやっているのだろう。部屋の中でたちまち溶けていく雪。
5首目、「零下三十度」とあるので、相当な冷え込みである。土間などに置いておいたキャベツが、かちかちに凍っているのだ。
これは歌集全体に言えることだが、子育ての歌に印象的なものが多い。
作者は3人の子を連れて樺太に移り住み、樺太で4人目の子を産むことになる。