2015年09月22日

鈴木竹志歌集 『游渉』

花散りて葉の茂るころ木蓮は誰も気付かぬ庭木となれり
頼朝の書きたる書状国宝と示してあれば国宝として見る
函館市文学館閑散として愛知の夫婦の貸し切りとなる
ボンベイがムンバイとなる地図帳の表記はわれの思ひ出を消す
遠来の客待つごとく丘のうへに香月泰男の美術館立つ
二分間テープ回りて晩翠の生涯語るを立ちて聞きをり
買はぬまま本屋出づるはわが主義にあらずと今日も文庫本買ふ
採点をしつつ眠気の襲ひ来て○の代はりに三日月描く
肉声といふものが何なのかついうたがひて声を出してしまひぬ
大観の「柿紅葉」の絵見つむれば二羽の鶉が動きだしたり

2001年から12年までの作品431首を収めた第2歌集。

1首目、一年のうちで花の咲いている時期だけ注目を集めるのだ。
3首目、自分たちのことを「愛知の夫婦」と詠んでいる。はるばるやって来た場所で貸し切り状態。
5首目、「遠来の客待つごとく」という比喩が、シベリア抑留体験を描いた画家の孤高な姿を感じさせる。
6首目、人の一生がわずか「二分間」にまとまられてしまう。そのことに対して、批判というよりは複雑な思いを感じているのだろう。
7首目、「わが主義にあらず」という大袈裟な言い方にユーモアがある。
9首目、破調のリズムが内容とよく合っていて効果的。肉声についてあれこれ考えているうちに、自分で声を出すに到ったのだ。

2015年9月11日、六花書林、2500円。

posted by 松村正直 at 06:24| Comment(2) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
歌集の紹介ありがとうございます。
やっと第二歌集を出せました。
まだまだこれが自分の歌だと言い切ることができません。
第三歌集で、何とか。
と言っても、何時になるやら。
Posted by 鈴木竹志 at 2015年09月22日 13:31
簡単なご紹介で恐縮です。
このところよく思うのですが、短歌はじっくり腰を据えて、目先のことに一喜一憂せず、
長い時間をかけて取り組んでいけば良いのでしょうね。
Posted by 松村正直 at 2015年09月23日 10:28
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