著者の専門である政治思想史の観点から、主に高度経済成長期の団地という空間を捉えた本。40年以上団地に住み続けた著者ならではのユニークで鋭い考察が光る。
当時団地で発行されていた新聞や自治会報などの資料も駆使しながら、大阪の香里団地、東京の多摩平団地、ひばりヶ丘団地、千葉の常盤平団地、高根台団地などを例に、そこに住む人々の政治意識や行動を詳しく分析している。
団地は戦後の近代的な生活システムを目指したという点においてはアメリカ的な存在であったが、その内実はソ連を中心とした社会主義的な側面を強く持っていた。
集団生活という居住形態や自治会での活動が、平等や公平といった価値を重視する社会主義に対する共感を生み出す一因となっているのは容易に想像できよう。
具体的に言えば、当時の団地は選挙において革新政党の強力な地盤となっていたのである。
私が生まれ育った東京の町田市の話も出てくる。
東京都町田市では、都営、公社住宅を合わせた団地の面積が七〇年五月に六〇三ヘクタール、団地人口は総人口の四四.五%に達した。
私が住んでいた1970年から90年まで、町田市は大下勝正(社会党)市長の率いる革新自治体であった。今から思えば、それも団地が多いことと深く関係していたのである。
2012年9月30日、NHKブックス、1200円。