2015年08月26日

舳倉島

阿部静枝の歌集『冬季』(昭和31年)を読んでいたら、舳倉島を詠んだ一連があった。舳倉島は能登半島の北にある島で、海女が住む島として知られている。

島ぐるみしぶきに濡るれば土あつめ作る乏しき菜も塩はゆし
海女ら海へいでて無人の島の昼はまうどの伸び目に見ゆる如し
舟べりに女体ひらめき潜みたり水に吐く息泡なして立つ
潜水に飢ゑたる人の肺が吸ふ空気ひゆうひゆう気管に鳴れり
潜水後を耳遠き海女大声にさざめけり笑へば下腹ゆらぐ

この島には一度だけ行ったことがある。

あれは金沢に住んでいた時なので、1995年の夏、今からもう20年前のこと。
前日、輪島に泊まって、その日は朝市を見てから島に渡る船に乗った。乗客は釣り人が多く、観光客は誰もいないようだった。

島は歩いて回れるくらいの大きさで、中央付近に灯台と小学校があった。灯台の中に入れてもらって、灯台の上から島の全景を眺めたのが印象に残っている。

島を離れる時に、「またいつか来たいな」と思ったのだが、それ以後、訪れる機会がない。そんなふうにして、二度と訪れることのない場所が人生にはたくさんある。

posted by 松村正直 at 08:07| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。