2015年07月17日

釈迢空歌集 『春のことぶれ』

第2歌集。昭和5年1月10日、梓書房発行。
『現代短歌全集』(筑摩書房)第6巻収録。

萩は枯れ/つぎて、芙蓉も落ちむ/と 思ふ/庭土のうへを/掃かせけるかも
穂すゝきのみゝづく/呆(ホ)けて居たりけり。/日ごろ/けはしく 我が居りにけり
邇磨(ニマ)の海/磯に向ひて、/ひろき道。/をとめ一人を/おひこしにけり
家群(ヤムラ)なき/邇磨の磯べを 行きし子は、/このゆふべ/家に 到りつらむか
旅を来て/心 つゝまし。/秋の雛 買へ と乞ふ子の/顔を見にけり
村の子は、/大きとまとを かじり居り。/手に持ちあまる/青き その実を
燈のつきて、おちつく心/とび魚の さしみの味も、/わかり来にけり
さかりつゝ/昼となり来る 汽車のまど。/敦賀のすしの/とればくづるゝ
さ夜ふかく/月夜となりぬ。/山の湯に、めざめて聴けど、われ一人なる
見えわたる山々は/みな ひそまれり。/こだまかへしの なき/夜なりけり

「/」は改行。この歌集は一首が3〜5行の多行書き。
しかも、行頭も上げ下げがあり、実際の表記は歌集を見ていただくしかない。

1首目、秋が深まって寂しくなった庭。
2首目、詞書「雑司个谷」。名物の「すすきみみずく」である。
4首目、「邇磨」は島根県の地名。2005年の市町村合併までは、「邇摩郡仁摩町」があった。旅の途中で追い越した娘はもう家に帰り着いただろうかと案じている。
6首目、まだ青いトマトを齧る少年。こういう子も今はいない。斎藤茂吉の「いちめんの唐辛子あかき畑みち立てる童のまなこ小さし」(『赤光』)を思い出した。
7首目、旅先で食べるトビウオの刺身。薄暗い卓で食べるのは味気ないものだが、灯りが点いてホッとしている。
9首目、静まり返った月夜にひとり、宿の湯に浸かっている場面。特に何もないけれどこれで十分という感じのする歌だ。

posted by 松村正直 at 08:30| Comment(0) | 歌集・歌書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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