2015年07月04日

金水敏著 『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』


「もっと知りたい!日本語」シリーズの一冊。

「そうじゃ、わしが博士じゃ」という博士に会ったことがありますか?「ごめん遊ばせ、よろしくってよ」としゃべるお嬢様に会ったことがありますか?

といった疑問を出発点として、特定のキャラクターと結びついた特徴ある言葉づかいを「役割語」と名づけ、その起源や意義などを考察した本。非常におもしろく、刺激的な一冊だ。

著者は、江戸時代以降の文章や小説、童謡、マンガなど様々な資料を用いて、役割語の起源を追求し、その変遷を描き出す。

結局、〈老人語〉の起源は、一八世紀から一九世紀にかけての江戸における言語の状況にさかのぼるということがわかった。当時の江戸において、江戸の人たちの中でも、年輩の人の多くは上方風の言葉づかいをしていたのであろう。

さらには、物語の中で「標準語」と非「標準語」を話す人物が登場する場合、読者は「標準語」を話す人物に感情移入する点を指摘する。その上で、中国人を描く際に使われる〈アルヨことば〉などを踏まえて、

異人たちを印象づける役割語は、(…)〈標準語〉の話し手=読者の自己同一化の対象からの異化として機能し、容易に偏見と結びつけられてしまう

といった問題点に言及するのである。

「役割語」という見方・捉え方をすることによって、言葉をめぐる実に多くの可能性や問題点が浮き彫りにされてくる。

この本はもう10年以上前のものだが、著者はその後も『コレモ日本語アルカ? 異人のことばが生まれるとき』(岩波書店、2014年)、『〈役割語〉小辞典』(研究社、2014年)といった本を出している。引き続き読んでいきたい。

2003年1月28日 第1刷発行、2014年11月14日 第13刷発行、岩波書店、1700円。

posted by 松村正直 at 10:06| Comment(0) | ことば・日本語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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