1981年に中央公論社より刊行された単行本の文庫化。
歴史小説のような、ドキュメンタリーのような、評伝のような、エッセイのような、何とも不思議な本である。著者の言葉を借りれば
人間がうまれて死んでゆくということの情趣のようなものをそこはかとなく書きつらねている。
ということになる。確かに、その通りという気がする。
主人公と言うべき人物は、正岡忠三郎(正岡子規の妹・律の養子)と西沢隆二(詩人・社会運動家、ぬやまひろし)の二人。この二人は司馬とともに1975年から78年にかけて刊行された『子規全集』(全22巻+別巻3巻)の監修に名前を連ねている。
その他、正岡子規、正岡律、正岡あや子(忠三郎の妻)、西沢麻耶子(隆二の妻)、西沢吉治(隆二の父)、富永太郎(詩人)、加藤拓川(子規の叔父、忠三郎の実父)、ユスティチア(忠三郎の妹)といった人々が登場する。
現在と過去を行き来しつつ、時おり「以上は、余談である」といった脱線もしながら、著者の筆はこれらの人々の姿を浮き彫りにしていく。その手腕は見事と言うほかない。
上巻:1983年9月10日初版、2010年1月30日改版13刷、667円、中公文庫。
下巻:1983年10月10日初版、2010年1月30日改版11刷、552円、中公文庫。