2009年から2015年までの作品206首を収めた第1歌集。
あしもとを濡らしてじっと立ち尽くす翼よりくちばしをください
本棚の上に鏡を立てかけてあり合わせからはじまる暮らし
発泡スチロールの箱をしずかにかたむけて魚屋が水を捨てるゆうぐれ
一台をふたりで使うようになるありふれたみずいろの自転車
いつまでも雨にならずに降る水の、謝らなくて正解だった
ぼんぼりがひと足先に吊るされてやがて桜の公園になる
習作のようにたなびく秋雲を見ているうすく色が注すまで
1首目、鷺になったようなイメージで詠まれている。「翼」と「くちばし」の対比がおもしろい。空を飛ぶもの(理想)と餌を獲るもの(現実)。
3首目は景のよく見える歌。一日の仕事を終えた魚屋の充実感が滲む。
4首目、結婚後の生活が自然体で詠まれている。「ありふれた」ものが特別なものになるのだ。
6首目、花が咲く前から桜まつりの準備が行われているのだろう。「ひと足先に」に発見がある。
7首目、「習作のように」という比喩が良い。サッと描いたデッサンのような感じ。
2015年6月15日、書肆侃侃房、1700円。