2011年に講談社から出た単行本の文庫化。
初出は「短歌研究」2007年1月号から2010年7月号。
35年の正岡子規の生涯の中から病床で過ごした8年間を取り上げて記した評伝。日清戦争への従軍からの帰りに船上で喀血した「明治二十八年」から始まり、一年ごとに章を区切って、子規の亡くなる「明治三十五年」までを描いている。
子規のことだけではなく、高浜虚子、河東碧梧桐、夏目漱石、伊藤左千夫、長塚節、秋山真之ら、子規と関わりの深かった人々についても詳しく記されており、明治という時代やそこに生きた人々の姿が浮き彫りにされている。
文庫で500ページを超える分量であるが、最後まで少しも飽きることがない。
散逸した蕪村句集を見つけるために子規が賞品を出した話の中で、著者は
杉田玄白の『蘭学事始』は明治初年、湯島の露店で叩き売られていたのを「発見」されたという「伝説」がある。
と書いている。そのように、明治になって新たに価値を見出されたものは、きっと多いのだろう。『梁塵秘抄』も明治の終わりに佐佐木信綱によって、古書店で「発見」されたのであった。
歌にも俳句の「座」を持ちこむ。会した面々が相互批評のうちに刺激を受けあい、その結果、歌のあらたなおもしろさが引出される、それが子規のもくろみであった。
これなどは、現在の歌会まで続いているものと言っていい。子規の残した功績をあらためて感じる一冊であった。
2015年4月15日、講談社文庫、950円。