2015年05月07日

小倉美惠子著 『オオカミの護符』


2011年に新潮社から刊行された本の文庫化。
おススメの一冊です。

実家の土蔵に貼られた一枚の「オイヌさま」の護符をきっかけに、著者はふるさと川崎市土橋の歴史や民俗に関心を持ち始め、やがて失われゆく暮らしの姿や山岳信仰の世界を映像で記録するようになる。

百姓の家に生まれた私もまた、家や村の歴史には無頓着だった。学校で習う「大きな歴史」と家や村の「小さな歴史」は、まったく交わることがなく、教科書に載らず、したがって試験に出るはずもない。「小さな歴史」を、むしろ軽んじていた。

というあたり、まさに同感である。この本を読むと、「小さな歴史」の大切さがよくわかる。一つ一つの「小さな歴史」を調べていくうちに、思いがけない「大きな歴史」が見えてくるのである。

「オイヌさま」の護符から、「御嶽講」、そして「オオカミ信仰」「山岳信仰」へと、話は広がりつつ深まっていく。見事なフィールドワークと言うべきだろう。

「宗教」、「信仰」は明治時代に生まれた翻訳言語である。だから厳密にいうなら、江戸時代までの日本には宗教も信仰も存在しなかったのであり、このような概念ではくくることのできない別の祈りだった。(…)しかしいまでは、私も「信仰」という言葉を用いなければ、何も語れなくなっている。

近代以降の日本人は、こうした矛盾を常に抱えつつ生きてきたのだろう。歴史を解き明かすことを通じて、今の私たちの姿もまた、よく見えてくるのである。

2014年12月1日、新潮文庫、490円。

posted by 松村正直 at 15:17| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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