2015年04月23日
原武史著『思索の源泉としての鉄道』
2011年から2014年にかけて講談社のPR誌「本」に連載した「鉄道ひとつばなし」をまとめたもの。これまで新書でも『鉄道ひとつばなし』『同 2』『同 3』というタイトルであったが、今回は名前が違う。
もともと単に鉄道マニア的な話だけではなく、著者の専門である日本政治思想史を踏まえた話がしばしばあったのだが、今回は東日本大震災を受けてその傾向がより顕著になったように感じる。
震災後すぐに復旧に向けて動き始めた三陸鉄道と、東北新幹線以外の復旧には消極的なJR東日本とを比較して、人々がコミュニケーションをとる「公共圏」としての鉄道を論じるあたりに、その真骨頂が表われている。鉄道は単なる移動手段ではないのだ。
本書では新幹線とナショナリズムの関わりについても論じられている。リニア新幹線で時速603キロが出て世界最高速度を更新したというニュースに喜んではいられない。効率とスピード重視の鉄道から、乗ることそのものを楽しむ鉄道へという著者の主張が、いつか実現する日が来ると良いのだが。
2014年10月20日、講談社現代新書、800円。
この記事へのコメント
コメントを書く