副題は「食と農の都・庄内パラディーゾ」。
2009年刊行の『庄内パラディーゾ』を改題、加筆修正して文庫化したもの。
山形県鶴岡市にレストラン「アル・ケッチァーノ」を構え、在来作物を使った料理の研究や地域の活性化に務める料理人・奥田政行と、彼の周囲の人々を追ったノンフィクション。
現在の農業が抱えている問題点や、地方と東京との格差など、料理を通じて日本の今後のあり方を問う内容になっている。
ちなみに「アル・ケッチァーノ」はイタリア語ではない。「そういえばあったわね」を庄内弁で言うと「あるけっちゃの」となり、それをイタリア語風にもじったのである。
こんなところにも、奥田の心構えがよく表れている。イタリアの物真似ではなく、庄内の素材を用いて、庄内の風土に合ったイタリアンを目指しているのだ。
カットしたサザエが8回で噛み終わるのであれば、合わせるウドもまた8回で噛み終わる固さに切って合わせる。昔はよくフレンチでも食材の大きさを整えろ、と言われたけれど、よく考えると、固いニンジンもあれば柔らかいタマネギもある。大きさではなく、噛む回数で合わせれば、口の中で違和感なく食べ終わるわけです。
こんな言葉を読むと、料理の世界の奥深さに驚かされる。そして、そこに一つの哲学があることを感じるのである。
2015年3月10日、文春文庫、680円。