2002年の「子規庵〈糸瓜忌〉」における講演を収めたものである。
若い頃に子規批判をしていたという著者が、やがて子規の面白さに目覚めていった経緯などが素直に語られている。
途中、根岸短歌会のメンバーであった香取秀眞に触れて
この頃出る本では香取秀眞という人は影がだんだん薄くなってきているんですが、これは僕らもそうなる可能性があるんで、今は一寸ずつ何かに書いてくれていますけれども三十年ぐらい経つと誰も何にも言ってくれなくて消えてしまうことがあるかも知れない。
と述べているのが印象に残る。この講演から十数年がたった今、香取秀眞の影はますます薄くなってきている。そして、昨年亡くなった田井さんとて、「三十年」というのはかなり希望的な観測だったのではないかという気がする。
講演の最後は
皆さんに最後の項の、
8 同時代人としての子規―現代短歌は子規を越えたか?
を宿題としてこれで終らせていただきます。
で終っている。時間切れというよりは、簡単には結論の出ない問題ということなのだろう。そして、この問いは今もなお有効であると思う。
2003年5月15日初版第一刷発行、2009年10月20日第二刷発行、500円、子規庵保存会。