「短歌研究」の連載(30首×8回)が中心になっている。
重箱の隅をつつくもさまざまにてその楽しさを吾は知りたる
顎出して目を閉じる猫 子ら三人(みたり)背を撫で尾を撫で頭を撫でる
藤野駅のホームの端に墓は見え幾人か供花(くげ)をたむけるところ
最後まで愛せし人ら集うなか身から出た錆と言う声はする
うつぶせにまたあおむけに寝てすごす掩体壕のごときわが部屋
昼寝する父と題して兄よりの写真がとどく夜半のメールに
語の意味を考え調べわからねば疲れ果ててぞ夢より覚めぬ
ふるさとに雪は降るとぞ死にそうで死ねない父を見舞いにゆかむ
橋行けば桜の花は足下に咲き満ちておりその奥の宴
江津湖へとそそぐ湧水ゆるやかな流れに黒き鯉をはぐくむ
2首目、一匹の猫を三人の子供が寄ってたかって撫でている。「顎出して」がうまい。
3首目は「塩尻まで」という連作のなかの歌。車窓から見た光景。
4首目は2009年に亡くなった歌人金井秋彦の葬儀の場面。「身から出た錆」に故人の人生を思う。
6首目、ふるさと中津川に住む父の介護をしている兄からのメール。「昼寝」と「夜半」とに、兄と弟の立場の違いが滲み出ているように感じる。
7首目、長らく辞典編纂の仕事をしてきた作者ならではの歌。退職した今も夢に出てくるのだろう。
9首目、「足元に咲き満ちて」が面白い。普段とは違う角度から見る桜。
2015年3月1日、短歌研究社、3000円。