山形県鶴岡市で地元食材を用いたイタリア料理店「アル・ケッチァーノ」を開いている奥田シェフと、食材を中心に全国を取材しているライターの三好さんが、東北の生産者を訪ね歩くという内容。
名取市のセリ、郡山市の野菜、宮城県南三陸町の牡蠣、福島市の桃、岩手県洋野町の天然ワカメ・アワビ、仙台市の白菜、石巻市の焼ハゼなどが取り上げられている。
名取市で月に一度オープンファームを開いている三浦隆弘さんの「農家というのはただ食物を作る場所ではなく、人が暮らす場所なんです。衣食住、人間が生きるチカラを磨くための、知恵や工夫が詰まった博物館でもある」という言葉に、深く納得した。単に食料生産という観点だけでは捉えられないのだ。
2011年の東日本大震災や原発事故によって、東北の農業や漁業は大きな被害を受けた。
都市部には、故郷の両親や祖父母が送ってくれる野菜を頼りにしている人たちも多い。お年寄りが手塩にかけて育てた野菜を仲立ちに、つながっていた家族の絆。それが途絶えてしまう。原発事故の影響は、そんなところにも現われていた。
本書には、東北の料理人と生産者による「東北の『食』と『農』を語ろう」という座談会も収められており、震災後の炊き出しの様子などを知ることもできる。
2015年2月15日、柴田書店、1800円。