大根(おほね)あまた売りし空地に風とほす板小屋立てて凍て魚を並ぶ
箕(み)の中ゆ開くかますに凍て魚のいま移さるとかたき音をたつ
土間の上にぶちまけられしうろくづのうごめきにつつ凍てゆくらむか
凍て河を時折よぎる犬橇にスケートをやめわれは佇ち見つ
氷下魚(こまい)つめし俵を人は凍て河の岸辺に運び来ては積みあぐ
「氷下魚」14首より。
1首目、大根を売っていた場所に小屋を立てて、冬場は魚を売っている。
2首目、「かます」は魚のカマスではなく、藁むしろの袋のこと。床に並んでいる魚を掬って袋に入れている場面だろう。
3首目、獲ってきた魚を土間に放り出すと、生きたまま凍ってしまう寒さなのだ。
4首目に出てくる「凍て河」は幌内川のことだろう。ソ連領から南下して敷香へと流れている川。氷の上を移動する犬橇や作者がやっているスケートなど、冬の樺太ならではの光景である。
5首目、氷に穴を開けて釣った魚を俵に詰めて川岸に積み上げているところ。